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「萌え市場」の成長性を考える

 
 4/14〜19にかけて、ガンホーバブル(4月初頭にラグナロクオンラインで有名なガンホーの株価が1000万円を超える異常な急騰ぶりを示した)の影響でブロッコリーの株価が急騰した。私自身は、急騰が始まる前に売ってしまい、利益を逸した上に株主でもなくなってしまったのだが。
 
 このガンホーバブルに始まるお祭り状態を、市場は「萌え関連銘柄」の急騰と捉えたようだ。4/14のYahooファイナンスのニュースに「萌え」関連銘柄が人気継続という記事がある。
 ITバブルがはじけ金融バブルも終わりを告げようとしている今、次の投資家のターゲットが、我々オタクに定められた。そういう捉え方も出来る。
 
 いくらオタクが金を持っていそうだからと言って、正直「期待過剰だ」と思う。しかも、後述するように最近ではオタクといえども必ずしも金を持っているとは限らない。しかもこの「萌え関連商品」の市場は、現時点では一般人に馴染みのない非常に規模の小さいものだ。
 だが。ずっと日の当たらない存在だったこの分野が、金融市場の話とはいえ曲がりなりにも認められてきたということ自体は、素直に嬉しいと私は思う。そこで、少し願望混じりに、「萌え市場の成長性」。というものを考えてみたい。
 
 
 結論から言うと。「萌え商品」「萌え市場」といったものが経済活動の一分野として定着するためには、その商品や市場そのものの構造改革が必要であるが、業界やクリエイターがリスクを負ってそれを受け入れる覚悟があれば、成長は十分に可能である。
 
 
 まず、「萌え」というものに対する需要について検証したい。率直に言えば「萌え」商品というのは、「空想によって作り出された、現実の女性の代替物」である。現実の女性に縁がない、若しくは縁があってもより高い自分の理想を求めがちな男性が、こういうものに手を出していると言っていい。
 
 従来は、こういったモノに手を出すのは「高学歴高収入・専門的技術職」、又はその予備軍の男性が中心であった。具体的なモデル像としては、「24歳前後・工学部卒・コンピュータ技術者・年収370万」といったものが挙げられる。
 昨年春に2ちゃんねるで発表されて一躍ブームとなった「電車男」は、正にこのモデルに合致していると言えよう。
 学校でも職場でも女性の少ない環境に身を置き、また本人の興味も女性よりはむしろ技術的・趣味的なことに向いている。それ故女性のことに多くの時間や手間を割きたがらず、手軽にアニメやゲームの世界に入り込むことで済ませてしまう。いわゆる典型的な「オタク」と言われる人達である。
 これが、従来の「萌え」市場を支えてきた層である。数としては非常に少なく、それ故に彼らが支える「萌え」市場もマニアックで規模の小さいものとして、社会一般からは歯牙に掛けられることもなかった。
 
 一方で近年、「萌え」市場を支える層に変化が起こり始めている。従来の典型的オタク層に加えて、低収入・非専門職の男性が増加し始めているのだ。
 これはなにも、この分野に限った話ではない。日本全体で、社会構造の変化、率直に言えば貧富の差の拡大で、男性の平均的社会地位、特に収入が低くなっている。それがオタクの世界にも反映されてきたと言える。
 これらの層は、「欲求はあるが自らの能力的限界によりそれを達成できない人々」である。彼らはそれらの欲求や願望を現実の世界で消化しきることが出来ないため、その捌け口をアニメやゲームの世界に求めている、と言える。欲求不満型オタクと言えよう。
 ここ1,2年で「萌え関連商品」が急速に社会の中での比重を高めてきた要因には、彼らの流入で市場が拡大を始めたことがある、とも考えられる。
 
 この両者の違いは、カップラーメンを食べる理由に例えることが出来る。前者の典型的オタクは、食事を作るのが面倒で手軽なカップラーメンを食べようとする。一方後者の欲求不満オタクは、お金が無くて割安なカップラーメンしか食べることが出来ないのだ。
 
 
 この様に「萌え市場」を支える層が低収入にシフトしているのだから、「萌え市場」に消費される金銭総額が減り、成長など望めないのではないか。そう思うかもしれない。だがそうではなく、一人当たりの消費金額の減少分を補う以上に市場を支える層の数そのものが増加し、市場は拡大する、とも考えられる。
 
 前述のように、男性の収入低下は社会全体に於ける現象である。旧来の日本の家庭モデルは「男性の収入によって妻と子を含めた家計全体を支える」というものであったが、それを実行できるだけの収入のない男性が今後増加して行くものと考えられる。
 ではその代わり、社会進出著しい女性の側がそれを穴埋めできるかといったら、それも実は難しい。何故なら女性の社会進出自体は進んだとは言え、収入は未だ男性のそれを大きく下回っているからである。企業内部は未だ男社会であり、法制度はともかく意識改革は全く進んでいないとすら言える。政治の世界も同様であり、積極的に変化を促すどころかより昔の状態に戻そうという動きすら見られる。この為改革が進む見通しは立っていない。
 であるから、残念ながら殆どの女性の収入は、今後も当分は低いままの状態を強いられると考えられる。当然、男性の穴埋めなど出来るはずもない。
 この様な理由から、男女ともに「結婚したくても出来ない」人が増えると考えられる。女性の側には「結婚せずにただ付き合うだけ」という選択肢もあるが、男性がこれをやろうとすると実際にはただ結婚するだけ以上に高い能力が求められる。このため、現実的にこの選択肢は無いに等しい男性も、数多く存在する。
 この結果、「女に縁のない男」が今後さらに増えることが予想される。
 
 この増大した「女に縁のない男」を全て取り込むことが出来れば、「萌え市場」は拡大し、急成長する事も十分に可能である。
 
 
 では、彼らを取り込んで行くにはどうすればよいのか。
 萌え商品には中学生向けのようなものから性的内容を含んだ成人向けのものまであり、また種類としても恋愛コミックやギャルゲー、美少女キャラクター商品といった幅広い物がある。が、いずれにしろ、多くの人には馴染みがないものである。聞いたことぐらいはあっても、実際に手に取ったり購入して集めたり一緒に寝たり他人に勧めたりということは、殆どの人が経験がないことであろう。提供媒体やデザイン、作品根底にある価値観が世間一般のそれとずれているため、これは致し方のないことである。
 なのでもしこれを広く売っていきたいのであれば、これまでの作り方を大幅に変え、「一般人」に受け入れられる内容のものを出していく必要がある。無論既存の作家やメーカーがこの様なことをすれば、逆にそれまで「萌え」市場を支えてきたオタク層が猛反発し、離反する可能性はある。大いにある。しかし一般向けに乗り出していくためには、場合によってはこれまでの顧客をばっさり切り捨てる、それだけの覚悟がなければならない。
 
 
 これは大変なリスクである。10年前であれば、敢えてこの様な危険を冒す創作者はいなかったであろう。だが今、この様な動きは既に始まっている。
 コミック(商業コミック)に於いては、元々が一般向けの色彩が強く購買層が広いこともあって、様々な作風が試されている。「あずまんが大王」は成功例の一つと言え、「萌え」路線の延長にありながらその親しみやすい内容から女性を含めた普通の人達にも支持されている。
 またギャルゲー業界では、Leaf・Keyが最新作を最初から年齢制限無しで出すなど、一般向けに販路を拡大しようと試行錯誤を続けている。Leafは大人気作品の続編である「ToHeart2」を、固定ファンの多いPC(Windows)向けではなく、一般ユーザーの多いプレステ2向けに出すことで支持の拡大を図っている。またKeyは、「CLANNAD」の制作に当たって女性ユーザーの取り込みを意識したと明言している。試みが成功したかは別として、意図としては「若い女性の支持が得られればそれ以外の層からも支持が得られる」というナタデココ効果を狙ったものと思われる。
 こういった戦略は、元々固定的なファンが多く、多少冒険的なことをしても作品を買ってもらえるという、販売リスクが少ない両ブランドだからこそ出来るとも言える。しかし一方で、そういう安定したところが敢えてリスクを負って一般向けへの進出を図っていることに、注目すべきと言えるであろう。
 
 
 この様な試みはまだ始まったばかりであり、取り組んでいるのも一部でしかないが。しかしもしこういった試みが成功すれば、次に続く企業・創作者集団が続々と現れる可能性もある。
 そのときには、今のような思惑先行の株式バブルではなく、本当の実質を伴った萌え市場の成長が始まったと言えるようになるであろう。
 
 
 
 
(blog4/14記事に加筆)
 
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