★(ホシ)新一先生を悼んで

 星新一先生がご逝去されて、もう一月になろうとしている。いや、実際になくなったのを知ったのは六日になってからなのだが、それにしたってもう二週間が過ぎている。
 こんな時期になってこういう文章を書くとは今まで何をしていたのかと問われそうだが、実際のところ寝込んでいた。1/6に、亡くなったのを前日の夕刊で知って、その晩どこぞのWeb掲示板に「ショックだから寝込む」というようなことを書いた記憶もあるが、まさか本当に寝込んでしまうとは思わなかった。
 別にショックだけが原因というわけではなく当時日本中を覆っていた気圧の谷による寒波がここ沖縄にまで影響を及ぼしていて、その所為で風邪を引いてしまったというのが現実だ。しかし、いつもの風邪と違って著しく気力が減退していたことを考慮すると、やはり全く影響がなかったわけではないだろう。
 まあ、星新一先生である。SF界の巨匠である。はっきり言って、私にとっては手塚治虫よりも橋本龍太郎よりもえらい。いや橋龍なんかと比べたら全国から非難の嵐が来そうだから今のは撤回。とにかくえらいのだ。何しろ、私の人生を変えてしまった人なのだから。

 私がこの辺境の惑星に生を受けて20数年になるが、この間私の人生に重大な影響を及ぼしたものが3つある。NHKと、日本共産党と、星新一である。まあ「ひめゆりの塔」も結構影響は大きかったが、これによる影響は現在残っていないので除外する。
 それぞれの経緯については、リンク先の文書を読んでいただきたい。なんやかやとあって私は中学生になったのだが、そのときになって初めて星新一先生の本を読んだ。いや正確には小学校の教科書にも載っていてちゃんと読んではいたのだが、特に作品を意識して読んでいたわけではなかった。もちろんショートショートなわけだが(註:ショートショートでない星新一作品もあるが)、その中の一つに「マイ国家」というのがあった。
 知っている人もいるだろう。知らない人は一度読んでみることをおすすめする。だから内容は書かないが、実にいい話だ。私は深い感銘を受け、同時にみづからの人生の目標を「独立国家建設」にすることに決めた。
 元から日本に未練など無い、いやむしろ私は日本という国家をつぶしてやるのだ。そう決めた私は日本民族であることを捨て、「バギ星人」を名乗ることにした。もちろん、星作品に頻繁に登場するあのバギ星人である。さらに私は、国家の形態やその存続基盤産業構造に至るまで構想を巡らせた。妄想という人もいるかもしれないが、構想である。そして、それを実現するために私は物理学科に進んだのだ。

 現在私の中に、この構想はもはやないも同然である。計画や考えが間違っていたというのではない。ただ、私の才能があまりにも貧弱だった。それだけのことだ。しかし、重要な要素である。これまで約10年を費やしてきた構想が瓦解し、精神的な空白状態にあったところへの星新一先生の訃報。これは一体何を意味するのだろうか。あきらめず再び夢に向かって立ち上がれということか、もう妄想を抱くのはやめようと言うことなのか。結論が出るまでには、もうしばらく時間がかかりそうだ、という感触を得ながら私はこの文書を保存する

戻る