俺と北川は、喫茶店にいた。二人とも学部が違うし、バイトもある。男同士で語る機会など、意外と少ないのだ。
祐一「もう大学生なんだから、居酒屋とかでも良かったよな」
北川「お前、酒飲むのか?」
祐一「ここは監視の目が厳しいからな。そういうことをおおっぴらに言うわけには行かない」
北川「そうか、一応未成年だからな」
祐一「一応、な」
北川「俺は健全な男子だからな。二十歳になるまで飲まないぞ」
祐一「健全な男子という言葉は、その意味とは裏腹に妙に卑猥な響きを持ってるよな」
北川「相変わらず意味不明なことを言う奴だな」
ちりちりん
女の子の一団が入ってきた。
祐一「…」
北川「…」
祐一「どうする?出るか?」
北川「いや、下手に出ようとすれば、見つかるかもしれん。ここは知らん振りをする方がいい」
祐一「そうだな。何しろ、佐祐理さんがいるからな」
北川「まあ、『北川さーん』って寄ってこられて、悪い気分ではないが。周りの目もあるし」
祐一「そうそう。俺なんて、いつも四人で行動してるだろ。視線厳しくてさ」
北川「俺だって弾劾したいところだぞ」
祐一「お前だって、名雪と一緒だろ」
北川「ばかやろ、俺達は…そういう関係じゃないし。そうだ、お前はこの上水瀬と二人暮らしじゃないか」
祐一「しっ、それは対外的に秘密にしているんだ!」
北川「そりゃそうだろうな。ばれたらお前、殺されるぜ」
祐一「ああ、どうせなら女の子に殺されたい…」
北川「女の子に…そうか、あの三人は、実は祐一を突いたり縛ったりするために一緒にいるのか」
祐一「どっからそんな発想が出るんだ?舞が剣持ってるからか?」
北川「川澄先輩もだけどさ。香里って、そういうイメージ無い?」
祐一「そういえば、高校の頃お前と香里って、よく噂たてられたよな」
北川「どういうわけかな。まあ、俺はいつでもOKだったんだが…」
祐一「香里はお目が高そうだからな」
北川「というより、あいつの好み、ヘンだぜ。少なくとも俺みたいな常人じゃ、眼中にないらしい」
祐一「お前ほどの奴が常人とは…厳しいなァ」
北川「大丈夫、お前ならいける。」
祐一「どういう意味だ?」
北川「ま、気にするな」
祐一「北川君、もしかしてひどいこと言ってる?」
北川「なんだ、いきなり水瀬化して」
祐一「うにゅ。くー」
北川「お前もずいぶん真似うまくなったな」
祐一「長い付き合いだからな」
北川「やっぱりそういう関係だったのか」
祐一「お前さあ、何でそう俺と名雪をくっつけたがるわけ?」
北川「なんでかなあ。俺って実は、水瀬に気があったりして」
祐一「そうだったのか。そうとも知らず、俺は協力もせず…」
北川「そんなに気に病むことは…」
祐一「気にしちゃいねえよ」
北川「このやろ。」
祐一「しかし、北川にそんな気があったとは」
北川「まあ、例えばって事にしておいてくれ」
祐一「じゃあ例えば、実は舞が好きなんてのはどうだ?」
北川「川澄先輩?う〜ん…。それはさすがに無いかなあ」
祐一「嫌いか?」
北川「いや、おもしろい人だとは思うが」
祐一「ま、確かに。発想が奇抜だし」
北川「奇抜な発想かあ…。こうして考えてみると、あの四人って、やっぱりただ者じゃないな」
祐一「ああ。四人の力を合わせても、世間の役には立たなさそうだがな」
佐祐理「祐一さ〜ん、北川さ〜ん!」
祐一「げ、見つかってんじゃないかっ!」
北川「何故見つかったんだぁ!」
佐祐理「あははーっ。実は最初から見つかってましたよーっ」
北川「最初から」
佐祐理「気づいてくれるまで待ってたんですけど、全然声かけてくれなくて。佐祐理は傷つきました」
祐一「そ、そんな…」
香里「それより、あたしの好みが変って、どういう意味?」
名雪「北川君、わたしに気があるってほんと?」
舞「…私、おもしろい人」
祐一「待て、念のために言っておくが、それは全部北川が言ったことだぞ」
北川「このやろ!って、何で全部知ってるんだよぉ!」
佐祐理「舞は、耳もいいんですよーっ。」
祐一「残念だったな、北川」
北川「だからぁ!何で全部俺に押しつけるんだよ!」
香里「そうね相沢君。あなたも同罪ね」
名雪「極悪人、だよ」
舞「…斬る」
祐一「待て、こんなところで刃傷沙汰なんて…」
香里「じゃあ、ここの払い全部二人で持ってもらうってことでいいわ」
佐祐理「あははーっ。温情的ですねーっ」
舞「…幸運。」
名雪「わたしイチゴサンデー5つ」
こうして俺と北川の休日は、予定外(+多額の出費)となってしまった。