その壱


 私は野菜くずを捨てない。正確に言えば、ごみに出さないで、いわゆる再利用という奴をしている。再利用といっても、別に特殊な調理をして残さず喰っているわけではない。よくある、「肥料にする」という方法を採っている。といっても、市販のコンポストなどを使っているわけではなく、単なるプラスチック製のごみ箱に放り込んでいるだけだ。結局捨てているのと大差ない。
 春目前のある日、ごみ箱から芽が生えていた。タマネギだろうと思って放って置いた。決してどうでもいいと思ったわけではなく、タマネギなら丈夫だからそのままでも育つだろうと考えたのだ。
 春目前は春ではなくどちらかというと冬に当たるわけだから寒い。にもかかわらず、芽は成長した。タマネギではない。葉を見ればわかる。そして四月になって植え替えることにした。別に気配りとか言うのではなく、要するにごみ箱がいっぱいになったから移し替えようと思っただけだ。
 掘り起こしてみたら、じゃがいもだった。なぜじゃがいもだとわかったかというと、根っこの先にじゃがいもの皮の切れっぱしがついていたからだ。皮の切れっぱし。ぺらぺら。
 素晴らしい!なんと素晴らしいことであろう!これこそ大自然の神秘、生命の息吹と言うものである。おーまーじーざす、インド人もびっくりあるよってなもんだ。なんと言っても皮の切れっぱしぺらぺらなのだから。
 植え替えて一週間位して根付いた頃を見計らって肥料をやった。雨が降った。土に黴が生えた。

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