知りたくない事実は、えてしていつかは知らなければならないことである。衝撃的な言葉を聞き取ってしまい、全ての真実を知ってしまったX。果たして彼は、大親友を危機から救い出すことができるのだろうか・・・・?!
(自称アール氏)が土に埋められている。この事実を知った私は、まずこの「土に埋める」という行為そのものについて探ることにした。この言葉は、文字通り人間を土に埋めてしまうという原始自然崇拝的行為を指すのか、それとも何か別の行為を指す隠語なのか。それがわからないことには、対策のたてようも何もないからだ。それに、自分がとんでもない勘違いをしているのかもしれない。もしかしたら、(自称アール氏)は自ら望んで「土に埋められ」ているのかもしれないからだ。
事実を最も正確にする方法は、当事者自身の証言を得ることである。まず私は、(自称アール氏)本人に直接確かめることにした。何しろ、私たちは大親友なのだ。困っているときに救いの手をさしのべれば、きっと事実をうち明けてくれるに違いない。
年末のある日、学科の忘年会が行われた。連絡不備と日時決定の遅れから参加者は多くはなかったが、我が大親友(自称アール氏)はその場にいた。そして好都合なことに、もう一方の当事者である(−)はその場にいなかった。私は早速、彼に尋ねてみた。
「 ねえ、『土に埋める』って、何?」
「・・・・は? 何それ。」
彼はとぼけて見せた。知らないはずはない、何しろ彼自身が、このことについて話していたのだから。
「何それって、話してたじゃない、(−)と。
なんかされたんでしょ。なんなの?」
「・・・・・・しらん。」
あくまでしらを切るつもりらしい。どういう事だ。これは私が思い違いでもしていたのだろうか。それとも、大親友の私にすら話せないような深刻なことがあるのか。そうだ、彼はきっと、私にまで迷惑がかかることをおそれて、話そうとしないに違いない。なんて友達思いのやつだ。
「知らないって事あるか。現に話していたじゃないか。困っているのなら、相談に乗るぞ。金が絡んでいるのなら別だが」
「おまえには関係ない。」
関係ない?関係ないとはどういう事だ。仮にも自分たちは大親友同志じゃないか。それを関係ないとは・・・・。いや、そうじゃないのだろう。大石蔵之助は、討ち入りの決意を固めたとき、家族に被害が及ぶのをおそれて妻と離縁したという。彼もまた、自分に被害が及ぶのをおそれてこういうことを言うのだろう。ならばなおのこと、その友情に報いるためにも、彼を救出しなければならない・・・!
「なんで言ってくれないんだ、そんなに深刻な問題なのか」
「うるさい、問題なんかない」
その後、しばらく彼と私の問答が続いた。執拗とも言える私の説得にも関わらず、彼は頑として事実を話そうとしなかった。
「そうか。全く言うつもりはないんだな」
「ない。」
「・・・・・・だったら、(−)に直接訊くぞ。それでもいいか」
「・・・・なに?!」
彼は明らかに動揺していた。友人を脅すようなことを言ってしまったことに私は後悔したが、今更後には引けない。
「今度会ったら訊くからな。かまわないな?」
「・・・だめだ。やめてくれ。」
「何故だ。関係ないことなら、訊いても何もないはずだろう。」
「・・・・そんなことしたら、(−)にひどい目に遭わされるぞ」
「・・・・土に埋められるのか?」
「いや、それは・・・・」
「そうか、(−)にこのことを言えば、土に埋められるんだな。
つまり、土に埋められると言うのがどういう事なのかわかるということだ。」
「いや、訊いたら駄目だ。そんなこと訊いたりしたら、(−)に監禁されるぞ」
「・・・監禁?!(−)が?ちょっとどきどき☆」
私のこの言葉に周囲は猛反応を示し、一気に話題の転換が行われてしまった。その結果、この日はついに(自称アール氏)の口から「土に埋められる」話を聞き出すことはできなかった。