祐一「・・・暑い。」
香里「どうせ何もしないんだったら、外歩いていた方がまだ有意義よね。」
祐一「いや、直射日光が当たるから嫌だ。」
香里「相変わらず我が儘ねえ。」
祐一「そう言う香里だって、日焼けとか気にしないのか?」
香里「そうねえ・・・・」

芝生の端に木陰を見つけ、そこに陣取る。

香里「ここなら直射日光は来ないわよ」
祐一「なあ香里。日陰でも紫外線は反射してくるって、知ってたか?」
香里「知ってるわ。」
祐一「意味無いんじゃないのか?」
香里「なに言ってるの。相沢君が暑い暑い言うから、ここに来たんでしょ。」
祐一「またそうやって俺の所為にする。」
香里「実際そうでしょ。」
祐一「俺が悪いのか?」
香里「そうよ。相沢君は極悪人。」
祐一「そこまで言うか・・・・。」

シャアシャアと聞こえる鳴き声。
最近は温暖化の影響で、クマゼミが北上してるらしいからな。

祐一「・・・結局これじゃ、部室にいるのとたいして変わらないな。」
香里「そうねえ・・・・」

どっちみちすることなど無いのだから、何ら支障はないのだが。

祐一「・・・・・・・。」
香里「どこへ行くの?」

やおら立ち上がった俺を、香里が呼び止める。

祐一「ちょっと待ってろ。」

祐一「おまたせ。」
俺の手には、アイスの入ったビニール袋が掛けられていた。
香里「暑い暑い言いながら、その暑い中を走って買ってきたわけね・・・。」
祐一「文句言うならやらん。」
香里「文句じゃないわよ。これでも感謝のつもりよ。」
ヨーグルトクリーム味のカップを取りながら言う。
祐一「あ、それおれが・・・」
香里「あ、そうなの?」
しかしそこからは、既に一口分が香里の口に移動していた。
香里「・・・食べる?」
匙ですくって、俺の目の前に突きだしてくる。
祐一「いや、もういい・・・・。」
さすがにそれは、まずいだろう。

のこるは苺ミルクと小豆とバニラ。
バニラ、か。

祐一「そういえばさ・・・栞、・・・どうしてる?」
香里「栞?」

香里「・・・元気よ。」

もちろんその元気というのは、普通の人間で言うところの元気ではないだろう。
ただ日常の生活に支障がないという、きっとそういう意味だ。

祐一「・・・そうか。」

栞とは、もう数ヶ月会っていない。あの日、あの場所であって以来。

栞「一度白紙にしましょう。」

そう宣告された、あの春の日以来。

香里「・・・栞、まだ未練あるみたいよ。」
祐一「だろうな。」
別に驕りから出た言葉ではない。
俺には正直、あのとき何故そんなことを言われたのか、今持って理解できていないのだ。
俺のことが嫌いになったわけじゃない。
俺だって、栞が嫌いになったわけじゃない。
なのに、何故・・・・・
祐一「んぁん〜〜〜〜〜っ、、、、・・・」
俺は残りのアイスを一気に口に放り込み、そのまま伸びるように倒れ込んだ。
香里「・・・・・・。」
それを見つめる香里の表情は、何とも言えないような複雑なものだった。

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