栞「祐一さん…。私、祐一さんのこと好きです」
祐一「どうしたんだ唐突に」
栞「でも…だからってこのまま、祐一さんを独り占めにしていいんでしょうか…」
祐一「?何言ってんだ」
栞「ドラマチックな展開をいいことに祐一さん自分のものにしちゃって…ずるいですよね、私」
祐一「待て、栞。何を言ってるんだ。わかるように説明してくれ」
栞「……」
祐一「栞…」
栞「一度、白紙にしましょう」
祐一「なんだって?」
栞「もう一度、最初から祐一さんに挑戦し直しですっ…」
祐一「待ってくれ栞、行かないでくれ、おい、俺をおいていかないで…」
祐一「……」
暑い。
それに、少し息がしにくい。
どうやら、顔に布がかぶせてあるみたいだ。
布を取り払い、起きあがってみる。
日差しがまぶしい。
…寝てる間に、陽が動いちまったのか。
布はどうやら、ハンカチらしい。
香里「起きた?」
移動した木陰から、香里の声が聞こえる。
祐一「…俺をこんなところに放り出して、どうするつもりだったんだ?」
香里「失礼ね。まるであたしが相沢君をわざわざ日の当たるところに運んだみたいじゃないの」
祐一「違うのか?」
香里「なんであたしがそんな事しなきゃならないの」
祐一「理由はよく知らないが、何らかの陰謀であることは間違いないな」
香里「日射病予防にハンカチまでかぶせてあげたのに…」
ま、そんなところだろうが
ちょっとからかってみるか
祐一「どうだか」
香里「どうだかって…何」
祐一「布がかぶせてあったところから察するに、おそらく俺を殺そうと…」
香里「…そんなにあたしと喧嘩したいの?」
…笑ってる。
祐一「滅相もない」
香里「そう?ちょっと残念」
なにが残念なんだ。
祐一「今、何時だ?」
香里「そうねえ…。1時くらいかしら」
2時間も寝てたのか。
祐一「…悪いな。ずっとまっててくれたのか?」
香里「ま、あたしが連れ出したんだからね」
祐一「起こしてくれても良かったのに」
香里「うん、でも相沢君の寝言、聞いてたから。」
寝言。
俺。何を言ったんだ?
少なくとも夢の中では、決して楽しいことはなかったが…
……。
そうか、確か、栞のこと考えながら横になって、そのまま寝ちゃったから…
だからあんな思いだしな夢を…
祐一「…栞」
香里「え」
祐一「香里、帰ろう」
香里「帰ってもすること無いんじゃない?」
祐一「アパートに戻るんじゃない。栞に会いたいんだ。高校も、もう夏休みだろ?」
香里「え?で、でも…」
祐一「何か、不都合でもあるのか?」
香里「…せめて、明日にしない?ほら、今から戻ったって、そんなに時間取れないし…」
祐一「それもそうだな」
香里「明日、ね…」
翌日。
俺と香里は、電車の中にいた。
香里「相沢君…」
祐一「わんは?」
香里「…食事中だったのね。後でいいわ」
祐一「えふにいあはへもいいほ」
香里「理解不能だから、やっぱり後にするわ」
しかしこの後、香里は何も言わなかった。
栞「祐一さん…」
見るからに嬉しそうな顔をした栞が立っていた。
俺を見てこんな嬉しそうな顔をしてくれるなんて…
けれどもその笑顔は、俺の疑念をますます膨れさせるものでもあった。
何故、別れなければいけなかったのか…。
いや、それを確かめるために、今日こうして会ってるんじゃないか。
香里「じゃ、あたしはこれで退散するわ」
栞「お姉ちゃん…」
祐一「あ、待てよ香里」
立ち去ろうとする香里の腕を、はしと掴む。
祐一「な、悪いけど、今日は一緒につきあってくれないか?」
香里「何言ってるの。邪魔者はさっさと退散するわ」
祐一「いや、これがデートだったら素直にありがとうと言うところだけどな…」
こじれた話(しかも俺には原因が分からない)を元に戻そうというのだ。
こういう時は、誰か仲介役がいた方がいい。
香里「あたしに何をしろって言うの?」
祐一「いや、俺と一対一では、栞も話しづらいかもしれないし…」
香里「あたしに、取り持ち役をやれっていうの?」
祐一「いや、ま、…正直に言えば、そういうことになるのかな…」
香里「相沢君、あなたって、残酷ね…」
祐一「え?」
香里「人が残酷な生き物だからこそ、運命はかくも残酷になりうるのね…」
祐一「ちょ、ちょっと…」
何を言ってるんだ香里。
香里「ごめんなさい。あなたがこんな事言われる筋合いは、無かったわね…」
そう言い残して香里は歩きだしてしまった。