14:星と森の感情

祐一「おう北川、電話したそうだな。何の用だ?」
北川「ああ、夏休みに相応しい、イベントを思いついたのだが」
祐一「海にでも行くのか?」
北川「いいところを突いてきたが、少し違う。行くのは、山だ」

北川「おう、みんな揃ってるな」
佐祐理「揃ってません。祐一さんと名雪さんが、まだです」
香里「予想はしてたけど…やっぱり遅刻なのねあの二人」
30分後。
香里「来たわね…」
祐一「済まんみんな、名雪が寝坊した所為で」
名雪「ちがうよ、祐一の所為だもん」
北川「うむ、そうだな」
祐一「なにが『そうだな。』だ」
北川「相沢、お前が悪い」
祐一「いや違う、今日は明らかに…」
北川「ではみんなに聞こうじゃないか。どっちが悪いと思うか」
5対0
北川「決まり」
祐一「待て!この件は、多数決で決めるような…」
北川「まあまあいいじゃないか。ということで、この荷物を持ってくれ」
祐一「冗談じゃない、俺の有罪はまだ確定して…」
北川「残念だったな。この荷物持ちは、罪の有無には関係ないんだよ」

祐一「北川ぁ!お前も荷物持て!」
北川「嫌だ」
祐一「名雪ぃ!お前も遅刻したんだろうがぁ!」
名雪「祐一の所為だもん」
祐一「香里ぃ!」
香里「か弱い女の子に荷物持ちやらせる気?」
祐一「舞ぃ〜」
舞「(なでなで)」
祐一「持ちたくないんだな…。おいこら変態!」
新濃「誰のことかな?」
祐一「そうやって反応してるお前だ。何故お前がここにいる!」
新濃「何を言う。部の合宿に前部長が来て、何の不可思議さがある?」
佐祐理「はぇ?これ、郷土研究部の合宿なんですか?」
北川「いや、それだけは違うと言っておこう」

佐祐理「つきましたねーっ」
祐一「これじゃ俺、向こう着いてから何も出来ないよ…」
北川「安心しろ。どうせお前は料理できないんだから」

祐一「なあ。俺は、料理できないから、荷物持ちやらされたんだよな?」
北川「そうだぞ。ちなみに、俺は出来るからな」
祐一「ああ、お前はいいんだ。だけど、こいつはどうなんだ?」
新濃「それではまるで、私が料理の出来ない男みたいじゃないか」
祐一「できるのか?!」
新濃「当然だ。私の料理の腕、とくと見るが良い」
祐一「見るのはかまわんが、食う気にはならんな」
新濃「そうか?まあいい。私の料理は、お嬢さん方に…」
佐祐理「あ、ごめんなさい。佐祐理達は自分で作りますからーっ」
新濃「ん?そうか。じゃあ、北川君…」
北川「なにが悲しくて男の手料理を」
新濃「そうだよな。じゃあ、やっぱり相沢君が食べるしかないねえ」
祐一「待て、俺だって男の手料理なんか嫌だ!」
新濃「何を今更。君と私の仲で、そんな遠慮することもあるまい」
北川「…!」
祐一「な、何を言い出すんだこの変態!」
舞「…不潔」
香里「最低ね」
名雪「変態、だよ」
佐祐理「もう佐祐理と口をきかないでください」
祐一「ま、まて!こいつの言ってることは、全部ウソ、虚言、妄言、事実無根だぁ!」
香里「そんなにムキにならなくても。大丈夫よ、みんなからかってるだけなんだから」
笑いながら立ち去る一団。
…みんな、オニだ。
祐一「北川」
俺は、北川の方をがっしと掴む。
祐一「…何だって、あんな変態まで誘ったんだ」
北川「いや、誘ってない」
祐一「え?」
北川「なんか知らんが、勝手についてきたんだよ。」
…迂闊だった。遅刻さえしなければ…

部外者が一人ついてきたことは、さらなる問題を引き起こした。
俺が運んできたテントは、6人分。二人用が三つだ。
祐一「こっちが、舞と佐祐理さん。こっちには名雪と香里が入るとして…残り一つは、誰が入るんだ?」
新濃「もちろん、残りの三人だろう」
北川「…二人用だってば」
新濃「二人用だから三人無理ということもないだろう。狭いテントの中、三人で熱い友情を語ろうじゃないか」
北川が心底嫌そうな顔をしている。
新濃「ん?どうした二人とも。何か不服かね?」
当たり前だ。
祐一「このテントには、俺と北川が入る。お前は野宿しろ」
新濃「そうか。君たちは、そういう関係だったんだね…」
北川「…!」
舞「…不潔」
祐一「ま、待て!」
非難の大合唱が始まる前に、俺は制止の声を挙げた。
新濃「やれやれ、とんだ邪魔をしてしまったよ。いや悪かった。邪魔者は、一人で寝ることにするよ」
そう言って新濃は、自分で持ってきたテントを組み立てだした。
祐一「持ってるんだったら、最初から使えぇ!」

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