当てもなく、二人並んで歩いていた。
別に目的があるわけでもないから、かまわない。
祐一「お、ムササビだ」
香里「よく見えるわね」
祐一「いや、勘だ」
交わす会話も、たわいない。
香里「ねえ、このキノコって、毒かな?」
祐一「縦に裂ければ食べられるらしいぞ」
香里「あら、でもイッポンシメジは縦に裂けるらしいわよ」
そう言って香里は、キノコの元にしゃがみ込んだ。
その上が丁度枝葉の隙間にあたるらしく、香里の元には星と月の光が射し込んでいた。
その光が、香里の髪に反射して…
香里「…?」
祐一「あ、い、いや、食べてみれば、毒かどうかわかると思うぞ」
香里「…確かにその通りだけどね…」
そう言って香里は、キノコをもぎ取った。
香里「相沢君、食べてみる?」
祐一「遠慮しときます」
香里「そう?残念」
そう言って笑う香里には、もう月の光は当たっていなかった。
…俺は、何を考えていたんだろう。
香里「星空の下でデート」
祐一「え」
香里「今戻って誰かが起きてたら、きっとそう言われるわね」
祐一「あ、ああ…そうだな。佐祐理さんなんか、そう言うの好きそうだし」
香里「なんて言い訳するの?」
祐一「え、そ、そうだな…。う〜ん…香里は?」
香里「あたし?あたしは…」
そう言いかけた香里が、一瞬硬直する。
その目線の先に、光る二つの目があった。
祐一「…狐だよ。子ギツネだな」
香里「わかってるわ」
子ギツネも、俺達を見て驚いていたのだろう。
暫く俺達を凝視した後、さっと身を翻して、闇の中に消えてしまった。
香里が少し、残念そうな顔をしている。
祐一「香里、キツネ好きか?」
香里「え?う、ううん、そんなことないわ…」
じゃあ、何故あんな残念そうな顔を
香里「戻ろうか」
祐一「ああ」
そのときふと、俺の思考に記憶が甦る。
子ギツネ。伝承。俺が部活に入った理由。
祐一「…香里」
香里「な…なに?」
そのときの俺は、よほど真剣な顔をしていたのだろう。
香里が唾を飲み込むのがわかった。
祐一「…部活」
香里「…え?!」
祐一「郷土研究部でやること。一つ、提案があるんだが…」
香里「え?あ、そ、そうなの」
そのあと俺は、この部活に入る気になった理由を、過去のことも含めながら香里に話した。
そして、とりあえず学園祭での研究テーマ発表を目標にしないかと提案した。
香里「わかった。考えておくわ」
そのころには、香里はもう平静を取り戻したようだった。
動揺していたのは、俺が意気込みすぎたからだろうか。
戻ると、起きている奴が一人いた。
新濃「やあお二人さん。星空の下でデートだったのかな?」
こいつにだけは、言われたくなかった。そんな気がした。