祐一「ここが部室だ。遠慮なく入れ。」
美汐「おじゃまします。」
新濃「・・・女子高生。」
祐一「あれは見なくていいからな。」
美汐「そんな事言われても困ります。」
新濃「・・・相沢君。女子高生を部室に連れ込むなんて、君は一体どういうつもりかね?」
祐一「いけないのか?」
新濃「いや、もちろんプライベートに口を挟むつもりはないが。」
また何か変な方向に持っていこうとしているらしい。
美汐「・・・すごい資料の山ですね。」
机の上の堆積物を見て、天野が言う。
祐一「調べものの途中だからな。」
美汐「調べものですか・・・。」
感心したように、資料を手に取っている。
新濃「何だ、積木崩しをやっているんじゃなかったのか。」
香里「積木崩し?どちらかと言うと砂山崩しじゃ・・・・」
新濃「しかしどうしたんだね急に。君がこんな熱心に活動するなんて。」
祐一「ま、幽霊するよりは有意義だと思ってね・・・。」
新濃「君の場合は顔は出しているから、幽霊と言うより呪縛霊だね。」
祐一「背後霊みたいなお前に言われたくはない。」
新濃「で、これはどうするんだ?部誌にしてだすつもりなら、自治会に予算の折衝に行って来なきゃならんが・・・」
祐一「それくらいの予算無いのか?」
新濃「無い!」
香里「大いばりで言わないで欲しいわ・・・」
祐一「ま、いいけどな。これは学園祭で発表するつもりだから。」
新濃「学園祭で?どの学園祭だ。」
祐一「どのって・・・ここの。」
新濃「それはわかる。で、いつの学園祭だ?」
祐一「今年の。」
新濃「今年のいつ。」
祐一「天野、学園祭っていつだ?」
美汐「私に訊かれても・・・」
香里「郷土漫才研究部に、名前変えようかしら・・・・」
祐一「俺は漫才してるつもりはないぞ。」
新濃「私だって、今回はまじめに訊いていたつもりなんだが。」
香里「そう。天性の才能なのね。」
新濃「まあ、そういうものもあるかもしれないが。で、いつの学園祭だ。」
祐一「まだ続ける気か。」
新濃「続けるさ。もし三週間後の学園祭でやるつもりなら、徹夜覚悟になるやもしれんのだからな。」
・・・・三週間後?
祐一「ここの学園祭って、夏休み中に学園祭やるのか?!」
新濃「知らなかったのか?三つの学園祭全部授業期間内にやるわけに行かないから、規模の小さいものは長期休暇中にやるんだ。」
三つ・・・・
祐一「知らなかった。学園祭って、三つもあるのか・・・・」
新濃「それも知らなかったのか。で、三週間後に発表するのか?」
さすがにそれは無理だ。
祐一「・・・その次にする。」
新濃「まあ、多分そうだろうとは思ったが・・・。」
香里「でも三週間後に学園祭あるなんて、あたしも知らなかったわ。発表まで行かなくても、なんか宣伝みたいな事やった方がいいのかしら?」
新濃「ん〜、別にいいんじゃない?毎年何もしてないし。」
なんていい加減なところだ。
こんなところだから、部員も集まらないんだよ。
美汐「・・・楽しいところですね。」
祐一「え、そうか?」
美汐「私も、ここに入りたくなりました。」
腑抜けた顔をしていた新濃が、急速に反応した。
新濃「君、名前は?」
美汐「は、はい。天野です。」
新濃「・・・天野さん。是非この大学に来た前。合格を心から祈っているよ。」
美汐「は、はい・・・・・。」
新濃「よっしゃ、一人確保・・・・」
かつて人との交わりを拒絶していた少女、天野美汐。
だが彼女は、俺と知り合う過程で、人の棲む世界に戻ってきた。
そして、今。
彼女は、俺の所為で人の道から外れようとしている・・・・。
そんな事を考えてみたりする、夏の午後の一時だった。驪その16へ
戀戻る