栞「おねえちゃん、夏休み、終わるね」
香里「ごめんね、あたしはまだ、終わりじゃないの」
栞「…」
香里「でも、夏はもう終わりね」
栞「だったら、いいよね…?」
香里「かまわないわよ。元々あんたが言いだした約束でしょ」
栞「そうだよね」
祐一「ぅ〜っ、く〜っ」
名雪「祐一どうしたの?悲鳴あげて」
祐一「いや、単に伸びをしただけだが…」
名雪「そうなんだ」
祐一「ちなみに何故伸びをしたかというとだなあ」
名雪「いいよ、わざわざ説明してくれなくて」
祐一「いや、説明させてくれ。それが俺の、名雪に対する誠意の表れなんだ」
名雪「そんなことで誠意示されても、困るよ」
祐一「我が儘な奴だ」
名雪「…祐一、もしかして暇なの?」
祐一「当たり前だ。夏休みとは言っても、季節はもう夏ではない。こんな残りかすみたいな休日に暇じゃない奴がいたら、お目にかかりたいものだ」
名雪「北川君はバイトで忙しいって言ってたよ」
祐一「あいつと俺を一緒にするな」
名雪「北川君もきっとそう言うよ」
祐一「烏龍がましいやつめ」
名雪「烏龍茶今切らしてるんだよ」
祐一「なんだと!」
名雪「飲みたかったら、買ってきてね」
祐一「飲みたくない」
名雪「そんなはず無いよ。きっと飲みたいはずだよ」
祐一「何でそんなことが言えるんだ」
名雪「わたしも飲みたいからだよ」
祐一「お前、買ってきて欲しいなら買ってきてと素直に言えんのか」
名雪「買ってきて」
祐一「暑いから嫌だ」
名雪「季節はもう夏ではない、んでしょ?」
祐一「…」
結局、近所のス−パーまで行かされることになってしまった。
そう言えば、スーパーマーケットは何故スーパーなのだろう。 スーパーという言葉が流行った時期があったのだろうか。 だったら今は日本語で「超」と言うのが流行ってるから、そのうち「超店」とか言うのが出現するのだろうか。
等ということを考えながら、店内を物色して歩いていた。
祐一「…」
ふと背後に感じる、人の気配。
小癪な、音も立てずに俺の背後に忍び寄るとは…。
祐一「…」
俺は、そいつにひじ鉄を食らわすつもりで、右腕を後ろに振った。
が、肘は空を切るだけで、何の手応えもない。
祐一「振り返ると、目標から一歩ずれた位置に、美坂香里が立っていた」
香里「目標って、何」
祐一「もちろん、肘鉄の目標だ」
香里「か弱い女の子に肘鉄喰らわそうとしていたわけ?」
祐一「俺の背後に音を立てずに忍び寄ったものは、必ず死を迎えるんだ」
香里「死んで無いじゃない」
祐一「いや、これから死ぬ予定だ」
香里「肘鉄かわされた人間が言う台詞じゃないわね」
祐一「…で、何の用だ?」
香里「別に。偶然見かけたから、背後に忍び寄っただけ」
祐一「…何の意味があるんだ」
香里「いつ気づくかなって思って。すぐ気づかれたけどね」
祐一「ま、俺の勘は鋭いからな」
香里「…あたしに言わせれば、超鈍感よ」
祐一「なんでやねん」
香里「それがわからないから、鈍感だって言ってるのよ」
祐一「なんだよそれ」
香里「気づかれてたら、それはそれで困ってただろうけど…」
祐一「贅沢な奴だな」
香里「悪かったわね。で、相沢君は、ここで何してるの?」
祐一「見ての通りだ」
香里「そう。名雪にうまいこと言いくるめられて、烏龍茶を買いに来てるのね」
祐一「…よくわかるな」
香里「あたしの勘も、大したものでしょ?」
俺と同じ、特売品の烏龍茶をかごに入れながらいう。
祐一「香里も、それを買いに来たのか」
香里「特売の文字にのせられて、ね。すっかり所帯じみた性格になっちゃったわ」
それは
祐一「おばさん臭くなった、と解釈して良いのだな?」
香里「失礼ね。雰囲気が落ち着いたと言ってよ」
祐一「そういうのをおばさん臭いと言うんだ」
香里「だったら、休日にヒマでごろごろしてる相沢君は、オジサン臭いわ」
祐一「いや、それは昔からなんだが」
香里「じゃあ昔からオジサン臭かったのね」
祐一「あのなあ。だいたい、九月に休みなんて、する事あるか?去年までバリバリ授業受けてたんだぜ?」
香里「バリバリ?」
祐一「いや、バリバリは嘘だけど」
香里「そうね。確かに去年は、休みじゃなかったものね」
祐一「季節はもう秋になって行くというのに、俺達の夏はまだ終わらないんだな…」
香里「…」
祐一「あ、今の台詞、ちょっとかっこいいよな」
香里「相沢君」
祐一「はい」
香里「栞から…何か連絡あった?」
祐一「栞から?いや、無いけど?」
香里「そう…」
暫く黙った後、香里は言葉を続けた。
香里「もしあったら…相沢君どうするの?」
祐一「え?どうするって、そりゃ、そんなの内容によるさ…」
香里「そうよね…」
祐一「なんで?」
香里「あ、レジ空いてるわよ」
それっきり、香里はそのことには触れなかった。