長い夏休みも、終わった。
あれから、何日が経ったのだろう。
俺の頭の中は、時間感覚を失わせるほど、混乱していた。
やはりこれは、早急に解決しなきゃいけないな。
でないと、いろいろまずいことが起きる。
名雪「祐一、今日燃えないゴミの日じゃないよ?」
祐一「香里、…」
香里「どうしたの?怖い顔して」
祐一「…」
どう切り出せばいいのか、わからなかった。
栞は俺と別れた。
それは香里の所為だ。
何故なら、香里が俺のことを好きだから。
どうしろというのだ。
怒ればいいのか?
ありがとうとでも言えばいいのか?
そもそも俺は、これから一体どうしたいんだ?
香里「なんなの?言おうとしてたこと忘れちゃった?」
祐一「え?ああ、まあそんなところだ」
しまった、つい条件反射ではぐらかしてしまった。
佐祐理「祐一さん、相変わらず忘れっぽいですねーっ」
ぴーん。
祐一「そうだ、佐祐理さんだ!」
佐祐理「え?佐祐理がどうかしたんですか?」
祐一「いや、佐祐理さんに用があるんだ」
香里「あたしじゃないの?」
祐一「いや、それは俺の勘違いだ」
香里「ちょっと、いい加減にしてよね」
そう言いながらも、香里は笑っていた。
舞「…で、佐祐理に用って、何なの?」
祐一「…」
佐祐理「どうしたんですか?用があるんじゃないんですか?」
祐一「いや、用あるけどさ…。何で舞までいるの?」
舞「…いたらいけないの?」
…。
どうだろう。
祐一「…ま、いいか」
たぶん、不都合無いだろう。
佐祐理「で、なんなんです?」
祐一「えとさ、香里、…のことなんだけど」
佐祐理「香里さんが祐一さんのシャーペンバラバラにしちゃったことですか?」
祐一「なに、あれは香里の仕業だったのか?!」
佐祐理「佐祐理も意外でした」
祐一「なんてこった。俺はてっきり舞の仕業だと」
舞「…だから私じゃないと言った」
佐祐理「駄目ですよ、簡単に人を疑っちゃ」
祐一「はい、反省します」
…待て、俺はこんな話をしたかったわけじゃないぞ。
祐一「…いや、そうじゃなくてだな」
佐祐理「ふえ、違うんですか?じゃあトイレットペーパーに『戦略情報学科相沢祐一のモノ』って書いて教室に放置したことですか?」
祐一「何、そんなこともしてたのか!」
佐祐理「佐祐理も意外でした」
舞「…あれで祐一、人気者になった」
祐一「ちくしょー、なんかみんな急に馴れ馴れしくなったと思ったら…」
…待て。
祐一「…いや、その話をしたかったわけでもない」
佐祐理「はえ〜。じゃあ、何の話です?」
祐一「えっとだな…」
…。
落ち着け。何も佐祐理さんに告白するわけじゃないから、恥ずかしいことなど何もないぞ。
祐一「あのだな、香里が、俺のこと好きらしいんだ…」
佐祐理「なあんだ。やっぱりそうだったんですね」
は?
佐祐理「あははーっ、舞、またライバル増えちゃったねーっ」
舞「…」
べしっ
祐一「あの、佐祐理さんは、わかってらしたんですか?」
佐祐理「何となくですけどね。態度とか。それに、あんなヘンないたずらするのは、やっぱりそういう気があるって事ですよーっ」
祐一「…俺は、そのいたずらが香里の仕業とも気づいてなかったからな…」
佐祐理「で、どうするんです祐一さん」
祐一「いや…。その、どうするかを相談したかったわけなんだが…」
佐祐理「ふえ?」
祐一「あのさ、五分ほど茶々入れせずに、聞いてくれるか?」
俺が話し終わったあと、暫く二人は黙ったままだった。
いや、舞はいつも黙ったままだが…
佐祐理「…ふえ〜」
その言葉(なのだろうか?)を発した後、佐祐理さんは考え込んでしまった。
舞「…祐一」
次に口を開いたのは、舞だった。
舞「…祐一は、どうしたいの?」
祐一「…わからない。だからこそ、こうして相談している」
舞「…栞さんと、もう一度やり直したいの?」
祐一「…そう…かな」
…
祐一「…いや、それさえも、もうなんだか…わからない」
佐祐理「混乱しちゃってるんですね…」
♪たんたんたたたんたたたたん♪
舞「…授業、始まる」
佐祐理「あ、そうだね。じゃあ、この話は、またあとにしましょう」
祐一「どうでも良いけど、この大学何でチャイムの代わりに音楽使うんだ?」
佐祐理「JR東日本のまねじゃないですか?」
授業終了。
香里「相沢君」
びくっ!
祐一「な、何だ香里」
香里「どうしたの、怯えたりして」
祐一「いや、殴られるんじゃないかと思って」
香里「殴られるような事したの?」
祐一「いや、してない」
香里「じゃあ、あたしが『相沢祐一殴り魔』だとでも言うのかしら」
祐一「いっそそうであったら、どんなに気が楽だったか…」
香里「え?」
祐一「いや、なんでもない。ごめん、ちょっと俺ちょっと用あるから…」
香里から逃げるようにして、教室を出た。