18:舞の思い

長い夏休みも、終わった。
あれから、何日が経ったのだろう。
俺の頭の中は、時間感覚を失わせるほど、混乱していた。
やはりこれは、早急に解決しなきゃいけないな。
でないと、いろいろまずいことが起きる。
名雪「祐一、今日燃えないゴミの日じゃないよ?」

祐一「香里、…」
香里「どうしたの?怖い顔して」
祐一「…」
どう切り出せばいいのか、わからなかった。
栞は俺と別れた。
それは香里の所為だ。
何故なら、香里が俺のことを好きだから。
どうしろというのだ。
怒ればいいのか?
ありがとうとでも言えばいいのか?
そもそも俺は、これから一体どうしたいんだ?
香里「なんなの?言おうとしてたこと忘れちゃった?」
祐一「え?ああ、まあそんなところだ」
しまった、つい条件反射ではぐらかしてしまった。
佐祐理「祐一さん、相変わらず忘れっぽいですねーっ」
ぴーん。
祐一「そうだ、佐祐理さんだ!」
佐祐理「え?佐祐理がどうかしたんですか?」
祐一「いや、佐祐理さんに用があるんだ」
香里「あたしじゃないの?」
祐一「いや、それは俺の勘違いだ」
香里「ちょっと、いい加減にしてよね」
そう言いながらも、香里は笑っていた。

舞「…で、佐祐理に用って、何なの?」
祐一「…」
佐祐理「どうしたんですか?用があるんじゃないんですか?」
祐一「いや、用あるけどさ…。何で舞までいるの?」
舞「…いたらいけないの?」
…。
どうだろう。
祐一「…ま、いいか」
たぶん、不都合無いだろう。
佐祐理「で、なんなんです?」
祐一「えとさ、香里、…のことなんだけど」
佐祐理「香里さんが祐一さんのシャーペンバラバラにしちゃったことですか?」
祐一「なに、あれは香里の仕業だったのか?!」
佐祐理「佐祐理も意外でした」
祐一「なんてこった。俺はてっきり舞の仕業だと」
舞「…だから私じゃないと言った」
佐祐理「駄目ですよ、簡単に人を疑っちゃ」
祐一「はい、反省します」
…待て、俺はこんな話をしたかったわけじゃないぞ。
祐一「…いや、そうじゃなくてだな」
佐祐理「ふえ、違うんですか?じゃあトイレットペーパーに『戦略情報学科相沢祐一のモノ』って書いて教室に放置したことですか?」
祐一「何、そんなこともしてたのか!」
佐祐理「佐祐理も意外でした」
舞「…あれで祐一、人気者になった」
祐一「ちくしょー、なんかみんな急に馴れ馴れしくなったと思ったら…」
…待て。
祐一「…いや、その話をしたかったわけでもない」
佐祐理「はえ〜。じゃあ、何の話です?」
祐一「えっとだな…」
…。
落ち着け。何も佐祐理さんに告白するわけじゃないから、恥ずかしいことなど何もないぞ。
祐一「あのだな、香里が、俺のこと好きらしいんだ…」
佐祐理「なあんだ。やっぱりそうだったんですね」
は?
佐祐理「あははーっ、舞、またライバル増えちゃったねーっ」
舞「…」
べしっ
祐一「あの、佐祐理さんは、わかってらしたんですか?」
佐祐理「何となくですけどね。態度とか。それに、あんなヘンないたずらするのは、やっぱりそういう気があるって事ですよーっ」
祐一「…俺は、そのいたずらが香里の仕業とも気づいてなかったからな…」
佐祐理「で、どうするんです祐一さん」
祐一「いや…。その、どうするかを相談したかったわけなんだが…」
佐祐理「ふえ?」
祐一「あのさ、五分ほど茶々入れせずに、聞いてくれるか?」

俺が話し終わったあと、暫く二人は黙ったままだった。
いや、舞はいつも黙ったままだが…
佐祐理「…ふえ〜」
その言葉(なのだろうか?)を発した後、佐祐理さんは考え込んでしまった。
舞「…祐一」
次に口を開いたのは、舞だった。
舞「…祐一は、どうしたいの?」
祐一「…わからない。だからこそ、こうして相談している」
舞「…栞さんと、もう一度やり直したいの?」
祐一「…そう…かな」

祐一「…いや、それさえも、もうなんだか…わからない」
佐祐理「混乱しちゃってるんですね…」
♪たんたんたたたんたたたたん♪
舞「…授業、始まる」
佐祐理「あ、そうだね。じゃあ、この話は、またあとにしましょう」
祐一「どうでも良いけど、この大学何でチャイムの代わりに音楽使うんだ?」
佐祐理「JR東日本のまねじゃないですか?」

授業終了。
香里「相沢君」
びくっ!
祐一「な、何だ香里」
香里「どうしたの、怯えたりして」
祐一「いや、殴られるんじゃないかと思って」
香里「殴られるような事したの?」
祐一「いや、してない」
香里「じゃあ、あたしが『相沢祐一殴り魔』だとでも言うのかしら」
祐一「いっそそうであったら、どんなに気が楽だったか…」
香里「え?」
祐一「いや、なんでもない。ごめん、ちょっと俺ちょっと用あるから…」
香里から逃げるようにして、教室を出た。

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