そして俺は、学食に向かう。
佐祐理さんと舞が、そこで待っているはずだ。
佐祐理「あははーっ、祐一さんここここーっ♪」
祐一「やあ佐祐理さん………」
新濃「はっはっは相沢君、何となく久しぶりだね。」
祐一「…。」
俺は、固まってしまった。
新濃「相沢君、この私に相談とは、キミもなかなか良い心構えをしているね。」
佐祐理「ごめんなさい、どうしても相談に乗ってやりたいって…」
舞「…祐一?」
つんつん
べしべし
ぼかぼかっ
祐一「痛いわぁっ!」
舞「…返事しない方が悪い。」
祐一「…まあいい。おい変態、俺はお前に相談持ちかけるほど、落ちぶれていないぞ。」
新濃「色恋沙汰の一つも処理できない人間が、何を言うか。」
ぐ…。
祐一「…あんたは、どうなんだ。処理できるって言うのかよ。」
新濃「私の辞書の不可能という文字は、F3F3F6だ!」
舞「…16ビットカラー?」
佐祐理「少し青いんですね。」
祐一「全然意味わからんぞ…。大体あんた、根本的に色恋沙汰とは全く縁がないじゃないか。」
新濃「失敬な。これでも高校時代は人気あったんだぞ。」
祐一「…なんで?」
新濃「理由なぞ知らん!」
やっぱり、こいつに相談するのは間違いだ。
祐一「と言うことで佐祐理さん、例の話だが。」
佐祐理「そうですね。えーっと、祐一さんが舞の消しゴム勝手に使って二つに割っちゃった話でしたっけ?」
祐一「佐祐理さぁん…」
いつからこういう人になったんだろう…
いや、もとからか?
舞「…。」
祐一「そ、その話はあとでしような。今は俺の」
新濃「恋愛スキャンダル。」
祐一「あんたは黙ってろ。」
佐祐理「そうそう、そうでした。香里さんが祐一さんのこと好きで、その妹の栞さんも好きで、ついでに舞も祐一さん好きだから、祐一さんは佐祐理とおつきあいするって事でしたよね?」
祐一「そうそう。…って、なんか最後違ってない?」
舞「…。」
ぼかぼかぼか
佐祐理「きゃーっ、舞、反応遅ーい。」
…。
祐一「なんか、めっちゃ遊ばれてる気がする…」
新濃「当たり前だ。こんなおいしい話を、一体誰が放っておくというのだ?」
うう…
佐祐理「あはは、でも、香里さんのことは、とりあえず冗談じゃ済まないですよね。」
祐一「佐祐理さん、あなたのことは信じてました。」
新濃「私のことは信じてなかったのか!」
佐祐理「とりあえず、このままだと気まずくなっちゃいますよね。」
祐一「ああ。気まずいというか、恥ずかしいな…。」
佐祐理「香里さんは、まだ祐一さんに知られてないと思ってるんですよね。」
祐一「たぶんな。」
佐祐理「じゃあ、まず『自分は知ってるんだぞ』って事を、言ってあげるべきじゃないですか?」
祐一「だれが?」
佐祐理「祐一さんが。」
祐一「俺が?自分で?」
佐祐理「はい。」
祐一「…なんて言えばいいんだよ。今日だって、それで躊躇しちゃったんだし…」
舞「…。」
新濃「香里、君は俺のこと好きらしいね。でも、俺には、もっと大切なものがあるんだ。それは、漢の友情…」
祐一「失せろ。」
新濃「いやか?仕方ないな。じゃあ、とりあえず一晩台詞を考えて、それからって事にしたらどうだ?」
佐祐理「あ、それいいですね。」
祐一「…たまには有益なことを言うんだな。」
新濃「と言うことで、今夜は私と二人で、台詞を考えながら友情について語り合おうじゃないか。」
祐一「前言撤回。」

四人が分かれた後、舞は一人教室に戻った。
舞「…まだいた。」
教室には、香里が一人残っていた。
香里「何?」
舞「…話があるの。」
香里「果たし状?」
舞「…かもしれない。」
香里「物騒ねえ。なんなの?」
舞「…香里、祐一のこと好きなの」
香里「…それ、誰に聞いたの?」
舞「…祐一。」
香里「…。」
舞「……。」
香里「…そっか。ばれちゃったんだ。」
香里は、目を落とした。
舞「…いけなかった?」
香里「ううん。仕方ないわよね…。」
舞「…どうするの?」
香里「どうするって?」
舞「…祐一、困ってる。」
香里「…困ってるんだ。」
舞「…どうしたらいいのか、わからないって。」
香里「わからない。なにがわからないんだろう。」
舞「…たぶん、迷ってるから。」
香里「そう。…そんな風に思うって事は、ちょっとは脈ありなのかな…」
舞「…香里はどうするの?」
香里「そうね。」
顔を窓の方に背け、香里は続けた。
香里「あたしも、わからないわ。」
舞「…私も、わからない。」
香里「え?」
舞「…祐一、優しいから…」
香里「…。」
舞「…私も、どうしたらいいかわからない。」
香里「…それって…」
舞「……。」
香里「そっか、…そういうことなんだ。」
その後二人は、ずっと黙ったままでいた。
秋の夕暮れが、教室を紅く染めていた。

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