北川を生協に連れ込んだ俺は、その場で飯をおごらされた。
北川「いわゆる、丁度いい時間という奴だな。」
祐一「くっそー、何で日本人は決まった時間に飯を喰いたがるんだ。」
北川「よそでも同じだと思うぞ。」
祐一「そんなはずはない。そもそも、米国のファストフード文化は…」
北川「長講釈はいい。さっさと要件を済ませてくれ。」
北川に促され、俺は事の顛末を身振り手振りを加えながら話した。
北川はそれを黙って(飯を喰っていたからだが)聞いていた。
北川「はあ、お茶がおいしい…」
飯を食い終わった北川が、お茶をすすっている。
祐一「…ちゃんと聞いてたか?」
北川「もちろんだ。スポンサーの言うことを無視するほど、俺は怠慢じゃない。」
プラスチック製の湯飲みをおいた北川が、表情を改めた。
北川「…で?」
祐一「え?」
北川「事情は解った。で、お前はどうしたいんだ。」
祐一「俺は栞がうそをついているとは思えない。だから、香里が何であんな事を言ったのか、確かめたいんだ。」
北川「確かめてどうする。」
祐一「え…?」
北川「『そんな嘘をつく必要はない、安心して俺のところに来い』とでも言うつもりか?」
祐一「いや、それは…」
わからない。
もし俺が、香里のことを好きならば、恋愛の対象であるというならば、そういう事も言うかもしれない。
でも、それがわからない。
困ったことに、違うとも言い切れないのだ。そんな自分にふと気づいた。
祐一「…う〜っ」
北川「仕方のない奴だな。すぱっと選べないのか。」
祐一「それが出来ないから悩んでるんだ。」
北川「やれやれ。伝説の色魔、相沢祐一も形無しだな。」
祐一「誰が色魔だ。」
北川「色魔だろう。三人もの女性の心を弄んでおいて。」
祐一「三人?」
北川「美坂姉、美坂妹、水瀬名雪。」
祐一「名雪?いや、あいつは…」
北川「わかってないとでも言うつもりか?もしそうだったら、殴るぞ。」
祐一「…。」
名雪。
名雪のことは、解ってないことは、無かった。
無いはずがなかった。
ただ、無意識的に触れなかっただけで。
心の奥底にしまい込んでいただけで…
祐一「あ〜〜…」
俺は、すっかり頭を抱え込んでしまう。
北川「やれやれ。何でこんな奴が、こうももてるかねえ…」
祐一「…それを言ってくれるな。」
北川「まあ、いいだろう。協力してやってもいいぞ。」
祐一「…助かる。」
北川「但し」
北川は付け加えた。
北川「問題解決は、俺のやり方で進めさせて貰う。それが条件だ。」
電話がかかってきたのは、3限目が終わったときだった。
香里「もしもし?」
北川「潤ちゃんだよ〜ん。」
香里「…北川君。よそでも、そういう電話の応答してるの?」
北川「まさか。相手が美坂だからさ。」
香里「そう。つまりあたしはナメられてるってわけね。」
北川「い、いやまさか。」
香里「冗談よ。…要件は?」
北川「ちょっと大したこと、かな…?」