茶色い葉が階段を埋め尽くしていた。
階段の錆もまた茶色。
同じ色のはずなのに、感じ方は全く違う。
色恋もまた同じかな…
香里「相沢君」
俺が部室に入ると、そこには既に香里がいた。
祐一「何の用だ?」
香里「用なんか無いわよ。入ってきたから呼んでみただけじゃない」
祐一「そんなことだと思った」
そう言いながら、香里と向き合うように腰を下ろす。
香里「相沢君…」
祐一「今度は用があると見た。何だ?」
じーっ
香里が、俺の方をじっと見ている。
祐一「な…なんだ?虫でもいるか?」
じーっ
祐一「か、顔は洗ったし、髪もたぶん立ってない。鼻毛は…手入れしてないが、たぶん大丈夫だろう」
じーっ
祐一「香里?香里ィ?香里おねぇさま〜」
香里「はあっ…」
祐一「な…なんだ今のリアクションは。なんか、失礼な気がするぞ」
香里「そんなことないわよ」
祐一「そんなこと無いって…あのなあ」
香里「別に相沢君のことバカにしたわけじゃないのよ」
祐一「…じゃあ、何でため息なんか」
香里「わかんない?」
祐一「あ、謎解きか?」
…。
祐一「う〜ん…便秘」
香里「…そりゃあ、なってたら深刻な悩みよね」
祐一「違うのか?じゃあ、貧血」
香里「貧血の人間が、こんな余裕かましてるとは思えないわ」
祐一「生理痛」
香里「男の子にそういうの言われると、ちょっと恥ずかしいわね」
祐一「そうか。ま、がんばれよ」
香里「ちょ、ちょっと待って。あたし別に、生理痛ってわけじゃないわよ?!」
祐一「そうなのか」
いつもと変わらぬ会話。
祐一「あ」
香里「なに?」
祐一「…いや」
つい昨日ぐらいまで何となく気まずい雰囲気だったはずなのに。
祐一「やっぱり、ほんとのこと知るって大切だよな…」
香里「ほんとのこと?」
祐一「ん?ああ、香里が南国フルーツカツサンド食べたって事さ」
香里「それがどう大切だって言うのかしら」
佐祐理「名雪さん」
呼び止められて、名雪は振り向いた。
名雪「あ、倉田さん」
夕刻の食堂。
混雑はしていなかったが、決して閑散としているわけでもなかった。
佐祐理「これからお食事ですか?」
名雪「うん。これから走るからね。軽くだけど」
佐祐理「部活ですか。佐祐理も、これから部活なんですよーっ」
名雪「あれ、倉田さん、何の部活ですか?」
佐祐理「ラップ部です」
名雪「ラップ。軽音楽ですか?」
佐祐理「そっちのラップじゃないです。サランラップとか、クレラップとかの」
名雪「え…?」
訝しがる名雪を余所に、佐祐理はさっさと座る場所を見つけていた。
佐祐理「ほらここ。ご一緒しません?」
名雪「ラップ部なんて…変わった部活ですね」
佐祐理と向き合いながら、名雪は話しかけた。
佐祐理「そうですね、ちょっと変わってるかもしれません」
名雪「どうしてそんなところに…」
佐祐理「他にもいろいろ迷ったんですよーっ。ハンガー部とか、空き缶部とか」
名雪「ここって…そんなにたくさん変な部活があったんだ…」
佐祐理「あははーっ。でも、さすがに郷土研究部にはかなわないですよーっ」
名雪「郷土研究部…祐一と香里が入ってるところですね」
佐祐理「あの二人も変わってますからねーっ」
名雪「佐祐理さん…」
佐祐理「はい?」
名雪「あの…あとでちょっと、相談のってもらえますか?」
佐祐理「いいですよーっ。何時にどこにします?いっそ、ついでになんか食べにでも行きましょうかーっ」
名雪「はい。そうしましょう」
相談に乗って貰う以上、「あなただって変わった人だ」という突っ込みは、敢えてしないことにした名雪であった。
香里「ところで相沢君」
祐一「は、なんでしょう」
香里「学園祭の期日は、刻一刻と迫ってるって、知ってるかしら?」
祐一「知ってたけど忘れてました」
香里「でしょうね」
にっこりと微笑んで、香里は机の上にどさりと紙の束を置いた。
祐一「…そんな風にやられると、心理的圧迫感が強いじゃあないですか」
香里「圧迫感が軽いと、あなた逃げそうだから」
祐一「ごもっとも」
香里「今日は、時間あるんでしょ?二人でこれやっておかない?」