祐一「なあ、香里」
香里「なあに?」
祐一「これ…いつまで続けるんだ?」
香里「いつまでにしたい?」
祐一「え〜と、…そろそろ終わりたいかなあ、何て…」
香里「相沢君。これって、元々あなたが言いだした事よねえ?」
祐一「はい、そうですが」
香里「それなのに、あたし一人を置いて、自分だけさっさと帰ろうておっしゃるのかしらぁ?」
祐一「香里は、まだ帰るつもり無いんだ…」
香里「これでも部長だしね」
祐一「…わかった。俺も残るよ」
名雪「…祐一、帰ってないみたい」
佐祐理「けしからんですねーっ。夜遊びするなんてーっ」
名雪「遊びなのかな…」
佐祐理「わかりませんけどね。夜遊びということにしておきましょう」
名雪「しておくって…」
佐祐理「その方が叱りやすいですからーっ」
名雪「何も叱らなくても…」
佐祐理「いいえっ。こういう事は、ちゃんとしておかないとダメですよーっ」
名雪「うん…」
佐祐理「ほんとは、当事者全部集めた方がいいんですけどね。舞とか、香里さんとか」
名雪「香里は、呼べば来ると思うよ」
佐祐理「呼びますかーっ。待つにしても、二人より三人の方がいいですし」
祐一「なんか電話鳴ってるぞ」
香里「あ、相沢君からだ」
祐一「ふうん…て、俺ここにいるじゃん!」
香里「だって、ほら」
ディスプレイの発信者表示は、俺の名前になっている。
祐一「あ、ほんとだ…。て、これもしかして名雪からって事じゃないのか?」
香里「たぶんそうね」
そう言って香里は、着信をONにした。
香里「…もしもし、名雪ね?…あ、ごめん、あたし今、部活中なのよ…うん、相沢君も一緒よ…なあに、不満そうねえ…」
香里が着信を切ってから、俺は訊いた。
祐一「何で俺の名前が出てくるんだ?」
香里「え?だって名雪がそう訊くから」
祐一「そうじゃなくて、携帯の話」
香里「ああ、あれ?だって、相沢君の名前で、電話帳登録してるんだもの」
祐一「…何で俺の名前で登録してあるんだ?」
香里「だって、相沢君とこの番号でしょ」
祐一「名雪でいいじゃないか。何で俺」
香里「…」
香里が、拗ねたような困ったような顔をしている。
こんな香里を見るのは、…初めてかもしれない。
祐一「…ええい、なんだよなんだよ。わかったよ、もう訊かないよ」
香里「ほんとにわかったのかしら…」
祐一「えーっと…ああ、作業かからないとな。遅れるからな」
半ばごまかすように、作業を再開した。
香里「…佐祐理さん、来てるんだって」
祐一「どこに」
香里「あなたのおうち」
祐一「なんでまた」
香里「相沢君のこと叱ってやるんだって、息巻いてるらしいわよ」
祐一「え…?!俺、なんか叱られるようなことしたか?!」
香里「一杯してるわよ」
香里は、窓の方を向きながら言った。
香里「一杯、一杯…」
祐一「…」
何となく、言いたいことはわかる。
そう、何となく。
でも
祐一「…ごめん、おれ、やっぱりどうしても、その辺のこと、…はっきりわからないんだ」
香里「そう」
祐一「いや、わかりたくない、のかな…もしかして」
香里「わかりたくない?」
祐一「昔…なんかあったらしいんだよ。よく覚えてないんだけどさ」
香里「そう。…あなたって、やっぱり名雪と似てるわね」
祐一「失敬な!」
香里「そんな風に言う方が失敬よ」
祐一「いやでも、名雪と似てるってのは…似てるのか」
香里「ま、いとこなんだから当然なんだろうけど」
香里は、少し目を落とした。
香里「…うらやましいな」
祐一「え?」
香里は、答えなかった。
俺も、それっきり何も言わなかった。
理由は…
二人とも作業に没頭していたから。
そういうことにした。