翌日。
授業のない時間を見計らって、シュートの事務所へ赴いた。
シュートは、「学生の学生による学生のための組織」というふれこみで、スタッフも学生がやっているフランチャイズ組織らしい。要するに学生は人件費が安いから使っている、と言う気がしなくもないが。そうすると、あのボッタクリの噂だって、あながち嘘ではないかも知れない。
と言うことで、契約書の内容について説明するスタッフに訊いてみた。
祐一「ここ、ボッタクルんですか?」
スタッフ「そ、そんなはずありませんっ。私たちは、親御さんからいただく料金、家庭教師の方に支払う報酬、我々がいただく手数料、全部適正な価格ですっ!」
祐一「いや、そんなに動揺されなくても・・・。」
スタッフ「と、とにかく。私たちは信用が売りの商売ですから。遅刻するとか、生徒に手を出すとか、そんなことは絶対しないようにして下さい。」
祐一「CMでは、手出してるじゃないですか。」
スタッフ「そんなCM流してませんっ!」
祐一「おかしい。あれは誰が見ても、親に隠れてつきあってる雰囲気だったが・・・。」
スタッフ「(無視)それでですね、この第46条ではですね、・・・・。」
長々と続く契約の説明に、いい加減うんざりしてきた頃。
スタッフ「で、最後ですね、68条。『契約者は、当会に無断で単独若しくは他組織との家庭教師契約を結ぶことを禁ずる。また、勧誘行為も同様とする。』」
祐一「・・・何ですか、それ。憲法違反じゃないですか、その条文?」
スタッフ「何が?」
祐一「よそと契約結んじゃいけないなんて。あんたとこからの仕事が少なかったら、よそと契約したくなることだってあるじゃないか。」
スタッフ「あのねえ。公務員だって普通の民間企業だって、アルバイト禁止してんだよ。それと同じだよ。職務専念義務って奴だ。」
祐一「だったら、学生やってること自体職務専念義務に違反してるじゃないか。」
スタッフ「詭弁だ。学業と職業は違う。」
祐一「ちがわねーよ。それじゃ何か?学業の一環として、家庭教育実習をすれば認められるのか?」
スタッフ「あんたねえ・・・。」
祐一「とにかく、俺はこの条項は認められん。するしないの問題じゃない、俺の良心が許さん。」
スタッフ「だったら、契約しなきゃいいでしょう。」
祐一「ああそうするよ。俺はちっとも困らないからな。」