祐一「うっとぉしい日が続くなあ…」
新濃「そうかい?」
祐一「うっとぉしい奴もいるなあ」
新濃「君、それは失礼だとは思わないかね?」
祐一「思わない。だいたい何であんたがここにいる。あんたこの授業取ってないだろ」
新濃「登録していなくても授業を聞くのは自由ってのは、大学の良いところだよな」
祐一「香里、部長権限でこいつを遠くに追いやってくれ」
香里「それって権力濫用じゃない?」
佐祐理「権力濫用はいけませんよーっ」
祐一「いいや、濫用じゃない。部長として為すべき正しいことだ」
香里「たとえそうだとしても、相沢君のためにやるってのが、気にくわないわね」
祐一「なんだよそれ」
しかし実際、雨ばかりで鬱陶しい日が続いてるのだけは事実だ。冬時の雪といい、梅雨時の雨といい、俺にとって嫌な天候ばかり多い地方だ。
香里「ほんとによく降るわね」
祐一「こうやって校舎の中にいれば問題ないけど、行き帰りが辛いからなぁ」
香里「傘持ってても濡れるからね。そう言えば、名雪、傘持たずに登校してくるそうじゃない」
祐一「ああ、『走ればそんなに濡れないよ』って、たーって行っちゃうんだよ」
香里「北川君がね、『水瀬が、髪濡らしたまま入ってくるんだよ。で、それを拭きながら、「北川君おはよう」なんて言うんだよ』って」
祐一「ちょっと興奮気味にか?」
香里「そうそう」
祐一「困った奴だ」
香里「ま、いいんじゃない?梅雨時の一時としては」
祐一「そうか、そう考えると、梅雨も悪くない…わけねーよ」
祐一「そう言えば、今日は金曜日だったな」
佐祐理「何かあるんですかーっ?」
祐一「週末は秋子さんの手料理を食べに戻らないと行けないんだ」
佐祐理「ふぇーっ。それは大変ですねーっ」
祐一「いや、あの脳髄にまで染み渡るような究極の美味のためなら、片道一時間半かっこ待ち時間除くかっこ閉じるの距離なんて、安いものさ」
佐祐理「秋子さんの料理って、そんなにおいしいんですか?」
祐一「ああ」
佐祐理「佐祐理の料理より、おいしいですか?」
祐一「……」
佐祐理「……」
祐一「…ごめん佐祐理さん、俺は、嘘のつけない体質になってしまった」
香里「それも秋子さんの影響かしら?」
佐祐理「あははーっ、気にしないで下さい。それに、正直な祐一さんは、佐祐理好きですよ」
香里「問題発言ね」
舞「…」
佐祐理「そんなんじゃないですよーっ」
祐一「そ、そうだ。さすがにその冗談は…勘弁してくれ。心臓に悪い」
佐祐理「でも、この雨の中、一時間半もかけて戻るの、大変じゃないですか?」
祐一「まあ、大変だな」
佐祐理「佐祐理が送りましょうか?」
祐一「え、いいの?」
佐祐理「もちろんです。舞も喜びますし」
祐一「どう喜ぶんだ?」
舞「……」
佐祐理「ほら、うれしそうでしょ?」
祐一「う〜ん、言われてみればそんな気もしないでもない」
佐祐理「ということで、決まりですねっ」
祐一「あの、名雪もいるんだけど、いい?」
佐祐理「大丈夫ですよ。一応5人乗りですから」
香里「トランクも入れれば、6人ね」
祐一「よし、北川をトランクに入れよう」
香里「北川君は帰らないんでしょ?」
祐一「そうだったな」
四人が乗り込んだ車は、一路、故郷の街に向かう。
いや、俺にとっては別に故郷というわけではなかった。
祐一「佐祐理さん、今の水しぶき…」
佐祐理「ちょっと爽快ですよねーっ」
祐一「いや、俺は怖かった」
名雪「佐祐理さん、今後輪スリップしたような気がするんですけど…」
佐祐理「大丈夫ですよーっ。この車、一応4WDですからーっ」
祐一「そういう問題なのか?!」
祐一「佐祐理さん、今、車回転しなかった?」
佐祐理「そういうときは、慌てずハンドルを逆方向に切るんですよーっ」
祐一「佐祐理さん…」
舞「…祐一、うるさい」
名雪「無事ついたね」
名雪は正直だ。
祐一「…ありがとう、佐祐理さん」
佐祐理「どういたしましてーっ。いっそ、毎週送りましょうかーっ?」
祐一「いや、梅雨時は遠慮しておく…」
佐祐理「そうですかー?じゃあ、また来週会いましょうねーっ」
祐一「うん。舞も、また来週な」
舞「…来週」
舞は、全く平気な様子だ。慣れているのか、それとも佐祐理さんを信用しきっているのか。どちらにしろ、大した奴だ。
名雪「ただいま」
秋子「お帰りなさい」
疲れ切った俺達を、秋子さんは暖かく出迎えてくれた。